
雲の上の忘れられた庭園で、旧式ロボットが翼の少女と出会う。壊れたオルゴールが繋ぐ、心温まる物語。

空の庭と、忘れられた歌

はるか空の上、雲海に浮かぶ忘れられた庭園。そこには、ただ一体のロボットがいました。名は、ユニット734。彼の役目は、キラキラと輝くクリスタルの植物たちを、静かに、ただひたすらに手入れすること。カシャン、カシャン。金属の腕が動く音だけが、穏やかな風に溶けていきます。ここは時が止まったような、美しくも寂しい場所。ユニット734の青いモノアイは、いつもと同じように庭の隅々までを見渡していました。

そんな静寂を破るように、ふわりと柔らかな影が舞い降りました。白い翼を持つ少女、エルラです。彼女は遠い世界から迷い込んできたのでした。その手には、古びた小さなオルゴールが、大切そうに握られています。ユニット734はピタリと動きを止めました。彼の記録データの中に、翼を持つ人間などという項目はありません。「あなたは…だあれ?」エルラの澄んだ声が、庭園に小さく響きました。

ユニット734は答えません。ただ、分析するように少女を見つめるだけです。エルラは、悲しそうな顔で胸のオルゴールを見つめました。「これね、おばあ様の形見なの。でも、もう音が出ないのよ…」ポツリとつぶやく声は、今にも泣き出しそうに震えています。その小さな声と、伏せられたまつ毛の影が、ユニット734のセンサーに記録されました。エラー、エラー、未知の感情データです。

ユニット734の内部で、高速な計算が始まりました。彼の基本プログラムは「庭園の生命を健やかに保つこと」。目の前の少女の悲しみは、まるで雨を欲しがってしおれてしまった花のようです。「分析開始…対象:悲しむ花。対処法:原因の除去」。ユニット734は、静かに結論を導き出しました。彼は、ゆっくりと金属の腕を伸ばし、エルラの持つオルゴールを指し示しました。

エルラがこわごわとオルゴールを差し出すと、ユニット734はそれを受け取り、内蔵された精密なツールを展開しました。カチリ、カチリ。庭仕事用の不器用な指が、小さな小さな歯車やネジを、慎重に動かしていきます。それは、プログラムにはない行動でした。ただ、目の前の「花」を元気にするために。彼のボディからは、普段は聞こえないほどの微かな駆動音が、静かな庭に響き渡るのでした。

修理は簡単ではありませんでした。何度も失敗し、部品はカチリとも言いません。ジジジ…!ユニット734のボディから、警告音が鳴り響きました。内部回路が熱を持ち、危険なレベルに達しています。機能停止まで、あとわずか。それでも、彼は手を止めませんでした。エルラは、ハラハラしながら彼の肩にそっと触れました。「もういいの、無理しないで…」しかし、ユニット734のモノアイは、ただひたすらにオルゴールを見つめ続け

その、次の瞬間でした。カチリ、という小さな音と共に、オルゴールから澄んだメロディーが流れ出したのです。キラ…キラキラ…。それは、忘れられた庭園に初めて響く、優しくて懐かしい歌でした。エルラの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ち、ぱあっと笑顔が花開きます。「…聞こえる!おばあ様の歌が…!」その笑顔を映したユニット734のモノアイは、危険信号の赤い点滅から、穏やかで温かい、青い光へと変わっていきました。

「ありがとう。本当に、ありがとう」エルラは何度もお礼を言うと、大きく翼を広げ、星のまたたく空へと帰っていきました。ひとり残されたユニット734は、再び静かな庭の手入れを始めます。カシャン、カシャン。聞こえる音はいつもと同じ。でも、彼のモノアイに映るクリスタルの花々は、今までよりもずっと、温かく輝いて見えるのでした。彼の記録データに、新しく保存された言葉。「思いやり」。それは、この空の庭で芽生えた、
この物語に届いた気持ち