
放課後の静かな図書室で、本を愛する少女と絵を描く少年が出会う。不器用な優しさが紡ぐ、心温まる物語。

図書室の小さな魔法

図書室の小さな魔法

放課後の図書室は、私の特別な場所。カタン、カタンと時計の音だけが響く中、古くなった本に新しい命を吹き込む時間が、私は大好きでした。傷ついたページをそっと撫で、破れた背表紙を丁寧に貼り合わせる。一冊、また一冊と本棚に戻っていく姿を見るのが、何よりの喜びだったのです。

いつからだろう。ふと顔を上げると、いつも同じ席に彼がいることに気づきました。美術部の奏太くん。彼は、ただ黙々とスケッチブックに向かっているだけ。でも、その視線が時々、私の手元に注がれているような気がして、少しだけ心臓がトクンと音を立てるのでした。何を考えているのかな。私、変に思われていないかな。

その日は、最悪の日でした。子どもの頃から大好きだった、うさぎの絵本。その一番大切なページが、くっきりと破れてしまっていたのです。まるで、私の心まで一緒に破れてしまったみたい。ぽろり、と涙がこぼれ落ちて、古い紙の匂いに混じって、しょっぱい味がしました。もう、元には戻らないんだ。そう思うと、胸がぎゅっと痛みました。

どれくらい、そうしていたでしょう。不意に、目の前に影が差しました。見上げると、奏太くんが、いつもの無愛想な顔で立っていました。「……貸して」ぶっきらぼうな、小さな声。彼は私の手からそっと絵本を取ると、何も言わずにくるりと背を向け、図書室を出ていきました。ぽかんと見送る私。彼の大きな背中が、夕日に染まって見えました。

それから、三日が経ちました。もう絵本は返ってこないのかもしれない。そんな不安が胸をよぎった放課後、私の机の上に、そっとあの絵本が置かれていました。震える手で開いてみると……ああ、なんてことでしょう。破れたページには、元の絵とそっくりな、でも、もっとずっと温かい、うさぎの絵が描かれていたのです。それは、彼の不器用な優しさそのものでした。

図書室の隅に、彼の姿を見つけました。私は駆け寄って、胸いっぱいの気持ちで、たった一言だけ伝えました。「ありがとう」彼はスケッチブックから顔を上げず、「……別に」とだけ呟きます。でも、その耳がほんのり赤く染まっているのを、私は見逃しませんでした。言葉にしなくても伝わる想いが、この静かな部屋には満ちている。そんな気がしました。

それから、私たちの放課後は少しだけ変わりました。本を直す私の隣で、彼が絵を描く。交わす言葉は少ないけれど、鉛筆の走る音と、ページをめくる音が、心地よい音楽のように響きます。夕日が差し込むこの場所は、まるで小さな魔法にかかったみたいに、キラキラと輝いて見えるのでした。世界で一番、優しい時間が流れる場所。
この物語に届いた気持ち